Netflix


米動画配信サービス大手のNetflixが日本に上陸するかもしれない、ということでメディア関係者の間で話題だ。東芝が国内初のNetflixボタン搭載のテレビを発売したこともあって、一部ではNetflix上陸によって「テレビ局の猶予はあと5年だ」という極論まで目にするようになった(勿論、記事を読ませるのが目的であり、本気でそう考えているわけではないと思うが)。

NetflixがIT活用力と戦略に長けた企業であり優れた企業で有ることに異論は無いが、少なくともあと5年間で日本のテレビ放送を揺るがす存在になるかと言われると、そうは思わない。そもそも、日本と米国では「テレビ」を取り巻く環境が全く異なるからだ。この違いをNetflixの歩みを見ながら、筆者の自論を説明しよう。

1.630万人の顧客基盤からスタート

Netflixはもともと、1997年にオンラインDVDレンタルとして創業した。その後2007年にストリーミングサービスを開始。当時630万人存在したNetflixの会員はこのストリーミングサービスを無料で利用することが出来るようになった。ただ、Netflixの全てのコンテンツが対象というわけではなく、ちょっと古めな約千タイトル、会員の契約内容によって視聴可能時間に制限を設けるという工夫を行っていた。Netflixは米国でストリーミングサービス開始時点から、630万人という顧客ベースが既に存在していたことになる。

※2011年に、DVDレンタルとストリーミングサービスの利用料金を分離。別々の利用料を支払う料金体系となったことで、一時Netflixの株価は急落した。

2.早期にエコシステムを形成

ストリーミングサービス開始直後はPCのみ対応だったが、2008年にNetflix APIを公開。これによりハードウェアメーカ等はNetflixを自社製品に容易に組み込むことが可能になった。2008年にはXbox 360、ブルーレイディスクプレイヤー、STBがNetflixに対応し、2009年にはPS3、インターネットテレビへとNetflixストリーミング再生可能な機器が拡がっていった。

2011年にgigomに公開されたInfographicsを見ると、2011年にはNetflixを視聴可能なデバイス数が450に及び、そのうちの大半はPS3、Xbox360からのアクセスであったとしている。大画面に接続されており、インターネットに接続されている「ゲーム機」を中心にNetflixストリーミングサービスが普及していったと考えられる。
出典:Gigaom netflix-by-the-numbers出典:Gigaom netflix-by-the-numbers

今のテレビの性能はわからないが、少なくとも2011年前後のテレビの性能であれば「テレビ視聴」のために設計されており、ストリーミングサービスを見るようには設計されておらず、コンテンツ選択の操作速度や、ストリーミングのバッファ等にも課題があったのではないかと推測される。

よって、テレビリモコンにNetflixボタンが付与されているといっても、そこからどれほどの視聴が行われているかわからない。また、Netflixの存在が圧倒的となった米国だからこそ、Netflixボタンが付与されたのであって、これを付けたからNetflixが普及したと考えるのは、大きな誤解である。

3.コードカッティング

では、米国でNetflixが圧倒的な存在となったのは何故か?ここに日米で最も大きな違いが存在する。日米のテレビ視聴環境の違いだ。日本人が水道、ガス、電気料金を毎月の生活固定費として支払う感覚と同じように、米国ではこれに「ケーブルテレビ代」として毎月約一万円支払うのが常識だった。

米国では、無料で見れるテレビ放送はニュース等に限定されており、バラエティや映画、スポーツ等はケーブルテレビ等の有料放送契約を行わなければならない。無料でスポーツ、ドラマ、映画何でも楽しめる日本のテレビ放送は欧米の放送業界からすれば「異常」とも言えるビジネスモデルなのだ。

ストリーミングサービス開始後のNetflixの主力コンテンツは「映画」であったが、映画の入手は困難であり、テレビ番組の配信に目を付けるようになった。テレビ局の番組をストリーミング配信するようにすれば、月一万円のケーブルテレビ視聴料と比較すれば、Netflixは約千円、十分勝算はある。テレビネットワークも新たな販路が生まれることを歓迎し、Netflixに番組を供給するようになった。

米国のテレビネットワークを上手く口説き落としたNetflixは、米国庶民にとって「安価なケーブルテレビの代替」となり、支配的な地位を築くに至ったのである。

4.自主制作ドラマの投入

米国で顧客基盤を固めたNetflixは、安定した収益力を武器に、オリジナル・ドラマの制作に乗り出す。2013年2月1日、Netflixは政治サスペンスドラマ「ハウス・オブ・カーズ(House of Cards) シーズン1」を公開。全13話を一挙公開する手法は注目を集めた。それだけでなく、本作品はテレビ界のアカデミー賞とも呼ばれる「エミー賞」の最優秀監督賞を受賞した。

かつては3大ネットワーク番組の独壇場だったエミー賞が、やがてケーブルテレビ番組の躍進が目立つようになり、ネット配信用ドラマが受賞したことで、業界の変化を象徴する動きとして注目されるようになった。

しかし、この成功によってテレビネットワークはNetflixを「競合」として認識するようになり、Netflixに対する警戒感が高まり出した。こういった動きに先手を打つかのように、Netflixは国外への拡大施策へ舵を切り始め、今では世界50ヶ国にサービスを提供する規模に成長し、潤沢な資金力で米国テレビネットワークが太刀打ち出来ない存在へと成長した。

更に、今後2年間で200ヶ国まで、サービス提供地域を拡大する予定であり、全世界規模のVoDサービスが誕生することになる。

■日本の環境に当てはめてみると

ここまでが、Netflix成功への軌跡であるが、これを日本に置き換えてみると、そう簡単な話とは思えない。

まず、世界で五千万人の会員を有するNetflixだが、日本ではゼロスタートである。Netflixが米国でストリーミングサービスを開始した2007年とは競争の激しさが異なり、日本では既にレンタル大手のTSUTAYAが運営するDISCAS、宇野 康秀氏率いるU-NEXT、ヤフーが運営するGYAO!、日本テレビが運営するHuluが有り、レンタル業界、ネット業界、放送業界の代表的プレイヤーが既にVoDプラットフォームを運営している。更に日本で無視出来ないのが通信事業者だ。日本の通信業界では光のNTTと、ケーブルテレビのKDDIという陣営が古くから「テレビアンテナの代替」を進めており、「テレビアンテナ設置不要」をセールストークにしてインターネット回線、固定電話、携帯電話、映像サービスのセット割りで顧客獲得を進めてきた。

エコシステム形成という観点からも、マルチデバイス視聴は当たり前のように提供されているため、特に差別化要素とはなりえない。コードカッティングについても、そもそもテレビ視聴が無料が前提の日本なら、「カット」する対象が存在しない。

鳴り物入りで登場した、Netflix対応テレビだが、筆者にはまるで「4度目の正直」を期待しているかのように見える。テレビ不振に苦しむテレビ業界ではこれまでにも、インターネットテレビ、3Dテレビ、スマートテレビとテレビに付加価値を付け加えることで、高級路線を開拓しようとしてきたが、どれもヒットせず「テレビはテレビ視聴のために買う物」という生活者のテレビに対する認識を確認するだけの存在となっていた。テレビを見るためにテレビを買った視聴者がNetflixのために「インターネット」へ接続するだろうか?

米国での戦略がそうであったように、Netflixは既にインターネットに接続されている機器を中心にユーザ獲得を目指すだろう。わざわざインターネットに接続されていもいないテレビ受像機を狙っていくとは考えにくい。

これらの状況を考えれば、そもそもNetflixの当面の開拓先はスマートデバイスやゲーム機からと考えるのが順当であり、既にテレビから遠ざかった視聴者が大半だ。

■当面はテレビ局にとっては味方に成り得る

「ハウス・オブ・カーズ」の成功から、Netflixは高品質なコンテンツが豊富なVoDと誤解されているかもしれないが、米国では「旧作が豊富なVoD」という位置づけであり、最新のコンテンツはレンタルDVDや他のVoDサービスの方が豊富だ。

Netflixのコンテンツが欧米そのままのラインナップなら、日本のユーザには物足りないかもしれない。米国での戦略をNetflixが取ってくるとしたら、日本のローカル・テレビ局にコンテンツ提供を持ち掛ける「かもしれない」。

体力のある民放キー局はスマートデバイス対応や見逃し視聴サービスへの投資を進めているが、体力のないローカル・テレビ局ではそういった投資を行う余力が無い。Netflixが高額なコンテンツ利用料を提示し、インターネット配信プラットフォームを利用させてくれるというなら首を縦に振るローカル・テレビ局も現れないとは言い切れない。

また、もしNetflix対応テレビが普及し、そこからNetflix視聴が行われるようになれば、スマートデバイスへと離れていった視聴者がテレビ受像機の前に戻ってくることになる。Netflixコンテンツ視聴の合間にテレビコンテンツを見るということもあり得るだろう。

こういった流れになる可能性はゼロでは無いだろうが、もし実現されるなら短期的にはテレビ局の味方に成り得る。(もっとも、長期的には立場は逆転するのだが)

■変化を好まない多数派

Netflixの日本展開は200ヶ国展開計画の中の1ヶ国に過ぎない。その中で日本は、日本語圏であり、文化も独特、VoDサービスは乱立しており、販売戦略も高度化していて、コードカッティング戦略も使えない。ガラパゴス大国日本がNetflixにとって魅力的な市場と映っているか疑問を感じるのだ。リーダポジションにある米国と、先行して進出した50ヶ国を収益の柱とし、200ヶ国展開はロングテール市場と位置づけ、ローコストオペレーションで「塵も積もれば山となる」存在とする戦略だと推測する。

Netflixが日本を重要市場だと見なして資金力に物を言わせて、コンテンツの日本語対応を行い、日本人好みのオリジナル・コンテンツを作成し、地方ローカル・テレビ局からコンテンツを買い付けるという地道な努力を積み重ねれば成功するとは思うが、それほどの手間をかけるとは考えにくのではないか。あるいは、長期戦に持ち込めば体力のあるNetflixだけがVoD市場で残っていたというシナリオも無くはない。

しかし、どれほどNetflixが本気になったとしても、5年でテレビ局を衰退させるまでの成功を収めるのは困難だろう。

普及のスピードが圧倒的と言われたスマートフォンであったとしても、普及が始まった2010年から5年経過し、ようやく半数がスマートフォンになった日本。マイルドヤンキーというセグメントが誕生し「変化を好まない多数派」がマーケタの間で話題になる日本。テレビの市場はこういった「変化を好まない多数派」に支えられた市場だと、筆者は見ている。

米国で流行った物は2~3年後に日本でも流行るという、「タイムマシン商法」はインフラビジネスには今でも適用可能だが、その国の文化が影響するコンテンツビジネスには当てはまらない。日本のテレビ局の強みは、その国の文化を理解し、それにあったコンテンツを作れる能力だ。その自信を失わなければ、きっとNetflixによって衰退させられるということは「5年」の間には絶対に起きないと断言する。参考文献http://bylines.news.yahoo.co.jp/ohmototakashi/20150215-00043056/

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